大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長野家庭裁判所 昭和51年(家)131号 審判

国籍及び住所 大韓民国

申立人 鄭恩兼 外三名

本籍及び住所 青森県弘前市

参加人 佐藤喜代子

国籍 大韓民国 住所 長野市

相手方 朴昭英

主文

本件当事者らの被相続人亡朴又光の遺産について次のとおり審判する。

一  別紙目録一の(1)ないし(6)の各不動産、同目録二の借地権、同目録三の(1)及び(2)のクレーン車二台、同目録四の(1)ないし(4)の預金債権、同目録五の出資金並びに中川ハルミに対する債権二、一九七、六四九円は相手方朴昭英が取得する。

二  同目録七の(1)ないし(3)の借入金債務、同目録八の(4)、(18)及び(19)の債務、○○○○信用組合に対する相手方名義の借入金債務(昭和五〇年七月二七日借入、元金四〇〇万円)、長野市に対する租税債務四四七、三五九円、同目録二の借地に関する借地料債務五四五、五〇〇円は相手方朴昭英において支払う。

三  申立人ら又は参加人において、前記債務の支払をしたときは、その額を相手方朴昭英に求償することができる。

四  長本行三、豊田貴昭共同名義の○○○○信用組合に対する通知預金債権三、四九五、七七七円は、申立人鄭恩兼が一、二七一、一九一円、同朴恵子、同朴淑子、同朴正子が各六三五、五九六円、参加人佐藤喜代子が三一七、七九八円に分割して取得する。

五  相手方朴昭英は、申立人鄭恩兼に対し、一一、九九一、八三三円、同朴恵子、同朴淑子、同朴正子に対し、それぞれ、五、九九五、九一六円、参加人佐藤喜代子に対し、二、九九七、九五八円の債務を各負担し、これらを各申立人ら及び参加人に対し、本審判確定の日から三年以内に支払うべし。

六  本件手続費用は各自の負担とする。

理由

以下摘示の事実関係は、特に証拠関係を記載したところのほか、本件記録に徴して認定したところである。

第一準拠法

一  相続は被相続人の本国法によるので、本件被相続人朴又光の本国法について検討するに、甲第一三、第一四号証、証人中川ハルミ及び同坂上義剛の各証言、相手方朴昭英の審問の結果によれば、被相続人は、昭和二一年ころ、妻子を朝鮮に残して来日し、以後我国に居住していたものであり、朝鮮は後、大韓民国(以下「韓国」という)と朝鮮民主主義人民共和国(以下「人民共和国」という)の二つの政府の併存するところとなり、被相続人の本籍地は韓国政府の支配地内に属し、同人の妻、申立人鄭恩兼、同人の子、申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子の四名は、現在韓国民として同国に居住している。被相続人は、来目後、田代キ子との間に参加人佐藤喜代子をもうけ、また、中川ハルミとの間に相手方朴昭英をもうけたが、参加人佐藤喜代子は我国籍のみを有し、相手方朴昭英は朝鮮国籍を得て、現在に至るまで我国に居住している。被相続人は昭和四一年ころ、実弟坂上義剛に依頼して、韓国に居住し、音信のとだえていた家族の所在を探しあて、以後時折援助の品を送つたこともあつたが、渡韓は、国籍を韓国籍に変更しないと認められなかつたため、なさず、我国においては在日朝鮮人総連合会(以下「朝鮮総連」という)に所属してその○○地区商工会副会長をしていた。また、その子相手方朴昭英に朝鮮国籍を取得させ、同女を朝鮮総連系の○○○○○○○学校に就学させた。

以上の事実によれば、被相続人の身分関係は韓国との密接な関係を否定できないが、人民共和国との関係も否定できず、被相続人自身は人民共和国に所属する意思を有していたと認められるから、同国をもつて被相続人の本国というべきである。

二  人民共和国を被相続人の本国とした場合、同国の相続法によつて相続関係を律することになるが、同国の相続法は明らかでない。朝鮮民主主義人民共和国社会主義憲法(一九七二年一二月最高人民会議において採択のもの)は、国家は勤労者の個人所有を法的に保護し、その相続権を保障すると規定している(二二条四項)ので、人民共和国においても相続制度が存在することは明らかである。しかし、その具体的内容を明らかにするものはなく、同国が、社会主義政治体制をとり、また、憲法もそれに沿つた平等規定を置いているところからすれば、「家」制度に基づく戸主相続(韓国民法第五編第一章)のような相続制度はとつていないであろうと推認できるものの、それ以上に相続人の範囲、相続分等を明らかにするものはない。なお、不動産の所有権については、同憲法が、生産手段は国家及び協同団体の所有であるとし(一八条)、個人的所有は勤労者の個人的費消のための所有であると規定している(二二条一項)ので、不動産所有権は相続の対象とならないのではないかとの疑いも生じないではないが、外国における人民共和国民の不動産の所有及び相続について、また、相続人中に他国籍者がいる場合について、その所有及び相続が否定されるかはこれを明確にする規定はなく、不明といわざるを得ないが、従前より、我国においては、我国在住の朝鮮国籍者の不動産相続もなされて来たところであり、その相続を否定するのは相当でないというべきであろう。

準拠法として指定された外国法が不明の場合には、法令の準拠法指定の趣旨に則り、準拠法国の法秩序を考慮し、また民族的習俗をも参考にし、具体的妥当性を持ち、条理にかなつた規範を適用するべきである。そこで、人民共和国と同民族の国家である韓国の相続法について検討するに、同国民法の相続は「家」制度、「戸主」制度に基づく戸主相続を規定し、不平等な相続制度であつて、同法は人民共和国の法秩序に徴して採用のかぎりでない。次に、我国の相続法についてみるに、我憲法は平等規定を有し(一四条、二四条)、これに基づいて、民法相続編も均分相続の制度をもうけ、平等の点において人民共和国法秩序に反するものではなく、被相続人は我国に生活の本拠を置いて生活し、蓄財し、相続財産は全て我国に存在していることから、本件においては、我民法に準じて相続関係を律するのが最も公平、妥当な結果を得られるものと思料される。

以上により、本件については、相続開始時における我民法を適用することとする。

第二相続人及び相続分

被相続人は、昭和五〇年五月四日死亡し、相続が開始したが、相続人は、その妻である申立人鄭恩兼、同女との間の子である申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子、田代キ子との間の子である参加人佐藤喜代子、中川ハルミとの間の子である相手方朴昭英の六名である。そこで相続分は申立人鄭恩兼が三分の一、同朴恵子、同朴淑子及び同朴正子が各六分の一、参加人佐藤喜代子及び相手方朴昭英が各一二分の一である。

第三分割の対象たる相続財産とその評価額

一  本件相続関始時における被相続人の積極及び消極財産は別紙目録(以下単に「目録」という)記載のとおりである。

二  目録一及び二については、鑑定人○○○○の鑑定の結果によつて認定したが、分割時における目録一の(1)ないし(4)の土地の評価額(合計)については鑑定時から既に四年を経過したので、各土地についての課税台帳における土地評価格の上昇率一、一一一一を鑑定時における価額に乗じた額とする。

目録二の借地権についても、土地価格に同程度の上昇が推認されるので、同率を乗じた額とする。建物については評価額の変動がないので鑑定時の価額とする。

目録一の(5)の建物については、その敷地所有者から収去明渡を訴求され、昭和五〇年三月一九日確定の判決により、収去義務が確定したものであり、建築以来一〇年を経過した建物でもあり、移転先も確定せず、また、移転、解体には多額の費用を要することが見込まれるので、その分割時における評価は〇円とする。

三  長野市大字○○字○○○××××番地×宅地二二七・四七平方メートル、同市○○○町○○字○○×番地×宅地二一九・九九平方メートル、同地所在家屋番号×番木造瓦葺二階建店舗及び付属建物建坪合計一九五・○三平方メートルについては、被相続人が中川ハルミに贈与し、同女の所有となつたものである(同女と申立人らとの所有権確認訴訟の判決において確認され確定した)から、上記各不動産は本件相続財産には該当しない。

なお、申立人らは中川ハルミに対し遺留分滅殺の請求をしたことが認められるものの、上記各不動産の相続開始時における価格は合計二三、三二七、〇〇〇円であり、後記のように被相続人が相続開始時において有した財産は四七、六七〇、五四二円であるから、遺留分侵害額は存在せず、申立人らの遺留分滅殺請求は失当というほかない。

四  目録三の(1)(2)については、その価額は必ずしも明らかでないが、証人吉沢里美の供述中に、四・八トンのクレーン車を一〇〇万円で売つたことも、三〇〇万ないし四〇〇万円で売つたこともある旨の部分があるので、いずれについても、少なくとも一〇〇万円の価額はあつたものと認定した。

五  目録三の(3)ないし(12)(14)ないし(17)については売却等による代価をもつてその価額と認定した。証人坂上義剛の供述中にはこれらの各物件はより高価であり、中川ハルミがこれらをより高価に売却しながら、低い金額で売却したように装つている旨の供述部分があり、甲第六号証中には一部これに沿うかのような評価がなされているが、いずれも、実物を評価したものではないので、これらを採用することはできない。

六  遺産分割の対象となるのは次のものである。その評価額についてはできるかぎり分割時に近い時期によることとし、債権債務の金利についても、できるかぎり、昭和五六年一二月末日の額によることとした。

1  目録一の不動産のうち(1)ないし(6)。(7)及び(8)は、その備考欄記載のとおり、既に売却されて存在しないが、その売却代金三、三五七、一二四円は申立人ら及び相手方各代理人名義で○○○○信用組合に通知預金されており、これは売却不動産と同一性あるものであるから、この預金債権を分割の対象とする。その昭和五六年一二月末日における元利合計は三、四九五、七七七円である。

2  目録二の借地権全部。

3  目録三の動産のうち(1)及び(2)。他のものはすべて現存しないので、それ自体としては分割の対象とならない。但し、(3)ないし(17)については、目録三の備考欄記載のとおり処分されており、その代金は、(11)ないし(13)を除く合計三、八四三、〇〇〇円を、中川ハルミにおいて保管している。これについては10のとおりである。

4  目録四の預金及び目録五出資金の全部。なお、その額には減少したものがあるが、存在しない以上、分割の対象とできないので、分割時の額をもつて分割の対象とする。但し、減少したものについては、中川ハルミにおいて引出したものと認められるので、これから入金した額を控除した二、四三一、八二六円を同女から返還をうける金額として10のとおり処理する。

5  目録六の手形金については(1)及び(7)は被相続人名義の預金口座に入金されているので、預金債権として分割の対象にする。(2)ないし(6)については、その備考欄記載のとおり、中川ハルミがその合計五六八、〇〇〇円を保管しており、これについては10に記載のとおりである。

6  債務については、本来、相続開始と同時に当然に共同相続人に分割承継されるものであり、遺産分割の対象とならないものであるが、本件においては、次に述べるように、その債務の一部を相手方の母である中川ハルミにおいて弁済しており、他の債務についても、相手方以外の相続人は遠隔地又は外国に居住しており、これらの者に請求することは著しく困難な状況にあり、弁済を受けていない債権者も個々の相続人に分割請求することなく、遺産分割審判の結果を待つているとうかがえることから、債務についても本件において遺産分割の対象として考慮を加えることとする。

まず、目録七の銀行等からの借入金のうち(1)ないし(3)。(4)についてはその備考欄に記載のとおり中川ハルミにおいて弁済ずみであるが、その弁済のために相手方において○○○○信用組合から四〇〇万円の借入をなしており、これは実質的に(4)の債務と同一性があるので、これを遺産分割の対象とする。その額は昭和五六年一二月末日において、元金、遅延損害金合計六七四万円である。中川ハルミが立替えた一〇〇万円については10のとおり。また、これらの借入金の金利については、その備考欄に記載のとおり、一部金利(合計一、三八二、二五〇円)を中川ハルミにおいて弁済しているが、これについては10のとおりである。

7  目録八の債務のうち、(4)、(18)、(19)。その余については、その備考欄に記載のとおりであり、中川ハルミが立替弁済したものが合計二、二八三、一四六円あるが、これについては10のとおりである。

8  相続開始後に、昭和五〇年五月から昭和五一年一月までの目録一の(1)ないし(4)の土地の賃料として、○○○○○○○から合計二三八、五〇〇円の収入があり、これを中川ハルミにおいて保管していることが認められるが、これは遺産より生じた果実であるから、遺産分割の対象とする。

9  相続開始後に、遺産の維持管理に要した費用、またそのために生じた債務、並びにこれに準じて扱うべきものとして次のものがある。

(一) 長野市に対する程税(固定資産税、都市計画税、特別土地保有税)

(イ) 中川ハルミにおいて立替支払のなされているもの合計九一、三三一円

昭和五〇年度分 四四、六三七円

昭和五一年度分 四六、六九四円

(ロ) 未払のもの 合計四四七、三五九円

昭和五二年度分 一二九、九五六円

昭和五三年度分 一二五、七七四円

昭和五四年度分 八七、一九三円

昭和五五年度分 五四、八八八円

昭和五六年度分 四九、五四八円

(二) 目録三の(1)及び(2)のクレーン車に対する自動車税五五、〇〇〇円

但し、中川ハルミにおいて立替支払

(三) 目録二の借地に対する賃料(月額合計七、〇〇〇円)

昭和五〇年五月から昭和五六年一二月分まで五六万円

但し、内一四、五〇〇円は中川ハルミにおいて立替弁済

(四) 四・八トンクレーン車修理代(○○硝子店)、中川ハルミ立替弁済七、四五〇円

(五) ニチユタイヤブルトーザーのエンジン取替費用五〇、〇〇〇円

有限会社○○○○○○○、中川ハルミ立替弁済

なお、ニチユタイヤブルトーザーの売却に際して、その運送に要した費用一八、〇〇〇円及びブルトーザーのシート代三、〇〇〇円を中川ハルミにおいて支払つているが、前者については同ブルトーザーの処分が遺産の管理上必要であつたと認めるに足りる証拠がないし、後者についてはどのブルトーザーのものか、何のための購入か明らかでないので、いずれも遺産の管理に要した費用から除外する。また、乗用自動車ボルボの車検及び修理等に要した費用が認められるが、これらは、相手方が自動車を使用するために必要となつたものであり、当該自動車は廃車となつたものであるから、遺産の管理に要した費用と認めない。

10  中川ハルミの保管金及び立替金

既に認定したとおり、遺産にあたる債権債務について、中川ハルミにおいて保管したり、返還すべきもの、また立替弁済したものが認められるが、これは、中川ハルミが被相続人の内妻として被相続人死亡時まで同居しており、また相手方の母であつて、被相続人の死亡後事実上遺産の管理をなして来たことから生じたものである。その管理については手続上問題があるが、管理の過程で支出したものは償還されるべきものであるし、保管するものは相続人らに返還されるべきである。そして、そのいずれもが金銭であるので、中川ハルミが返還すべき金員からその立替弁済した額を控除したものを中川ハルミに対する債権として遺産分割の対象とする。

中川ハルミが返還すべき金員は、既に認定の動産売却代金三、八四三、〇〇〇円、手形金に相当する五六八、〇〇〇円、○○○○○○からの賃料保管金二三八、五〇〇円、預金減額分二、四三一、八二六円の合計七、〇八一、三二六円であり、同女が立替ている金員については、既に認定の目録八の債務に対する立替弁済金二、二八三、一四六円、固定資産税等の立替金九一、三三一円、クレーン車の自動車税立替金五五、〇〇〇円、借地料立替金一四、五〇〇円、クレーン車修理代七、四五〇円、ブルトーザーエンジン取替費用五〇、〇〇〇円、○○○○に対する弁済金のうち一、〇〇〇、〇〇〇円、○○○○信用組合に対する金利の立替一、三八二、二五〇円の合計四、八八三、六七七円であるので、中川ハルミに対する債権は二、一九七、六四九円である。

11  以上によれば、遺産分割の対象となる積極消極財産の総額は三八、八八五、三七五円である。

第四特別受益

家庭裁判所調査官○○○○○の調査報告書によれば、相手方は昭和五〇年三月婚姻したが、その際、被相続人から結婚被露宴の費用六三四、一二六円及び嫁入道具四七四、二五〇円を贈与されたことが認められ、これらは相手方の特別受益額と認められる。

なお、相手方は○○○○○○○学校に入学し、その学費及び寮費の負担を受けたことが認められるが、この費用の支出は、被相続人の扶養義務の範囲内に属すると認められるので、特別受益とはしない。

第五相続人らの具体的相続分及び取得分

一  みなし遺産の総額

相続開始時における遺産総額四七、六七〇、五四二円に相手方の特別受益額一、一〇八、三七六円を加えた額四八、七七八、九一八円

二  みなし遺産に対する各相続人の相続分(円未満切捨)

申立人鄭恩兼 48,778,918×1/3 = 16,259,639

申立人鄭恩兼以外の申立人ら 48,778,918×1/6 = 8,129,819

参加人佐藤喜代子及び相手方朴昭英 48,778,918×1/12 = 4,064,909

三  特別受益額控除後の相続分

申立人鄭恩兼 16,259,639

申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子 8,129,819

参加人佐藤喜代子 4,064,909

相手方朴昭英 4,064,909-1,108,376 = 2,956,533

四  具体的相続分

申立人鄭恩兼 (16,259,639/47,670,542) ≒ 0.34108

申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子 (8,129,819/47,670,542) ≒ 0.17054

参加人佐藤喜代子 (4,064,909/47,670,542) ≒ 0.08527

相手方朴昭英 (2,956,533/47,670,542) ≒ 0.06203

五  具体的取得分

申立人鄭恩兼 38,885,375×0.34108 ≒ 13,263,024

申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子 38,885,375×0.17054 ≒ 6,631,512

参加人佐藤喜代子 38,885,375×0.08527 ≒ 3,315,756

相手方朴昭英 38,885,375×0.06203 ≒ 2,412,059

第六分割

一  被相続人は昭和三二年ころから、長野市に、内縁の妻中川ハルミ及び同女との間の子相手方朴昭英とともに居住し、同市において鉄くず商等をはじめ、その後、○○商店あるいは○○○○興業の名称で各種中古建設機械等の販売修理業を行い、蓄財してきたもので、その所有した不動産等の物件はすべて長野市に所在し、債権債務関係も長野県下において生じたものである。そして、本件相手方は、現に、別紙目録(一)記載の一の(5)の建物に居住しているのに対し、本件申立人ら及び参加人は、前述のとおり、韓国に居住したり、遠隔地に居住するので、本件の物件を実際に管理したり、処分するのは著しく困難な状況にあり、また債権者において申立人らに対して権利行使をするのも困難なところである。そして、遺産の管理は、相続開始以来、事実上中川ハルミにおいて為して来ており、一部については同女において処分したり、また弁済したりした結果、その正確な把握がむずかしくなつたものもあり、預金についても、その名義を相手方に変更したものもある。被相続人の営業については、申立人ら及び参加人において承継するのは不可能に近く、相手方も女性であつて、これを承継する意思もなく、これは困難であるが、相手方の母中川ハルミにおいては、一時、その計算において同種営業をなしたことも認められるので、被相続人の営業に用いられていた財産を処分することは、相手方が最もなしやすい情況にある。

以上により、本件遺産の分割については次に記載するものを除き全部相手方朴昭英に帰属させたうえ、他の相続人らにはその相続分に相応する金額を相手方に支払わせる方法によるのが相当である。なお、相手方に帰属した債務について、申立人ら又は参加人において支払をしたときはその額を相手方に求償できるものとする。

二  前記第三、六1に記載の預金債権三、四九五、七七七円については目録一の(7)及び(8)の土地を売却した代金を申立人及び相手方ら双方代理人名義で預金としているものであり、被相続人の営業活動とは無関係に生じたものであるので、これは申立人ら及び参加人に相続分の割合に応じて分割帰属させるのが相当である。申立人ら及び参加人の相続分は前記認定のとおり、申立人鄭恩兼が三分の一、同朴恵子、同朴淑子、同朴正子が六分の一、参加人佐藤喜代子が一二分の一であるから、それぞれに帰属する額は次のとおりである。

申立人鄭恩兼 一、二七一、一九一円

申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子各 六三五、五九六円

参加人佐藤喜代子 三一七、七九八円

三  そこで、相手方が申立人ら及び参加人に負担すべき金額につきみるに、これは申立人ら及び参加人の具体的相続分から、前記預金債権の分割金額を控除した額であるから、次のとおりとなる。

申立人鄭恩兼 一一、九九一、八三三円

申立人朴恵子、同朴淑子、同朴正子各 五、九九五、九一六円

参加人佐藤喜代子 二、九九七、九五八円

これらの金額は、相手方の資力を考えると、審判確定の日から三年以内に支払うこととするのが相当である。

四  審判費用は各自の負担とするのが相当である。

第七結論

よつて、主文のとおり審判する。

(家事審判官 松本哲泓)

別紙 物件目録〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例